（――あ、いまクイッて肩が上がった？
脚も少しだけピリピリして見える。
そっか、そろそろ仕掛けてくるんだね！）

他者から見れば尋常ではない
努力の積み重ねを経て、
マチカネタンホイザは
今このレースに挑んでいる。
だと言うのに彼女は、

（2人の走りは、たくさん見てきた。
走り方もクセも、仕掛けるタイミングも、
全部調べた。でも、そんなのは――）

『普通の努力』だから、と言う。
前を走る背中に勝ちたいから、
だからこれが『普通』なんだと。

（でも、勝つためにはそれだけじゃ
足りないよね。脚を、もっともっと
強く動かさなくちゃ――！）

レースが苦しいことは、わかっている。
勝つことが大変なことも、身に染みている。
でも、それらはすべて当たり前のこと。
だから踏み込む、土を蹴る。
2つの背中を追いかけて、勝つために。

「よぉおし！！　ここから私も、
ババーンッと行っくぞぉー！！」