「スペちゃんは羽根つきに
込められた願いを知っていますか？」

顔に墨を塗るための筆ペンを
私に差し出しながら、不意に
グラスちゃんがそんなことを聞いてきた。

「羽根つきに込められた願い……？」　　

「この羽根の先の木の実には、
『健康でありますように』
という願いが込められていて……
羽子板は、『様々な厄をハネのけて、
健やかに美しく育ちますように』
という願いを込めて
お正月に贈られる物なんですよ」

「へぇー！」

「ですので羽根つきは本来、
打ち合って競うのではなく、
互いの健康を願って
長く打ち合い続けるものなんです」

「ええっ、そうだったんだ！
じゃあ次からはなるべく長く続けなきゃ！
……あっ、じゃあハイ！　グラス先生！
もしかして罰ゲームで顔に墨を塗るのも
なにか理由があったりしますか？」

「いい質問です、スペシャルウィークさん。
一説では墨の黒は魔を払う色とされていて、
それを顔に塗ることで魔除けとなり、
身が守られると考えられているそうですよ」

「なので、万が一
羽根を落としてしまっても、
墨を顔に塗れば大丈夫、ということですね」

「ただの罰ゲームじゃないんだね！
――よし！」

受け取った筆ペンに
ぎゅっと力を込めて深呼吸をする。

「グラスちゃんが
一年間ケガなく走れますように」
右目に一筆、大きな丸。
「風邪とか病気になりませんように」
左頬に一筆、斜めに線。
「美味しいものをたくさん食べて、
たくさん笑ってくれますように」
左頬にもう一筆、斜めに線。

一筆一筆に想いを込める。
友だちとして、ライバルとして
いつまでもどこまででも
一緒に走れますようにと――

「……たくさんお祈りをしてくれて
ありがとうございます、スペちゃん。
でも、ふふっ、ちょっと塗りすぎですね？」

「え？　わぁ！？　ごめんなさい！！！！」