「（――待ってたよ）」

狩猟で大事なのは忍耐力、そして持久力だ。
獲物を追い詰め、
仕留めるためには焦ってはいけない。
絶好の機会が来るまで、
神経を尖らせ、様子を窺い、ひたすら待つ。
それがどんな悪天候でも、揺るがない。
十全に立ち向かえるだけの肉体と精神を
故郷の自然は与えてくれたのだから。

「（狙いは大外、仕掛け時は――今！）」

あとはただ、全力で――
狼の如くしなやかに、
大熊の如く力強く、
真白の勝負服に泥が跳ねても厭わず、
私は走る。
大雨の山籠もりも、泥だらけのかけっこも、
幼い頃から経験してきた。大好きだ。
――負けるはずなんか、ない。

「やあああああ……っ！」

がらんどうの客席から、それでも
みんなの存在を、想いを、応援を感じる。
歴史に残る一瞬を、
待ちわびている人たちがいる。
だから。
笑顔が素敵な、逃げ粘るあの子も、
一番人気の女王様も。
全部全部、追い抜いて――
ゴールという名の獲物へ……喰らいつく！

「はあっ、はあっ、はあっ……」

「やったよ、みんな――
このレースは……私が仕留めた……！」

まるで祝福を与えるかのように、
曇天から幾筋もの光が柔らかに差し込む。
それは、舞い落ちる羽根にも似ていた。