[独奏・螺旋追走曲]
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こんな暗い所にひとりでも、怖くないんだな

エピソード

[独奏・螺旋追走曲]
走る。走る。走る。
まだ足りない、彼女に追いつくには。
まだ足りない、全てを追い越すには。

廻る。廻る。廻る。
上昇している。下降している。
ぐるぐると思考は巡り、
いつしか私は極彩色の歯車の上にいる。

美しい歌が過ぎ去っていった。
私のための歌ではなかった。
ただ前を向く意志が過ぎ去っていった。
私は前ではなく彼女の背中だけを見ていた。

ああ、彼女の背中だけが見える。
もう、彼女の背中しか見えない。
ただがむしゃらに走るしかないのだ。
その揺らめく背に向かって。

私という1つの生き物が
攪拌され、希釈され、再構築され、
ただ彼女を追うための
1つの歯車になっていく。

自分が何者でなぜここにいるのか、
徐々にわからなくなってきた。
喧噪が遠い。
歓声なのか怒号なのかもわからない。

ぐちゃぐちゃにかき回された世界で、
彼女を追う1本の糸のような道筋だけが
どこまでも静かだった。

(アナタを追っている。
ずっと、アナタだけを――!)

黄金の歯車が廻る。
彼女に触れようと手を伸ばす。

――その瞬間、確かに、
私は世界の全てを置き去りにしていた。
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